

経済産業省は2025年8月26日に、「令和6年度電子商取引に関する市場調査」の結果を公表しました。
セカイカートでは、全4回のシリーズで調査資料を基に解説と独自の考察をお届けします。
このコラムは、第3回になります。
第3回 BtoB取引のEC化を推進する「調達戦略」と「営業戦略」について
第3回目では、越境取引市場の調査結果から、BtoB取引のEC化を推進する「調達戦略」と「営業戦略」について解説します。
日本のBtoB-EC市場規模と業種別のEC化率
日本のBtoB-EC(企業間電子商取引)市場は、2024年に514兆4,069億円に達し、前年比10.6%増と堅調な成長を続けています。EC化率も 43.1%と、前年から3.1ポイント増加しました。
この市場拡大の背景には、各産業がそれぞれの事業戦略に応じてECを活用している実態があります。
BtoB EC市場拡大の二つの要因:調達の効率化と営業の深化
業種別のEC化率をみるとEC化率が高い特定の製造業と、EC市場規模の高い卸売業が目立ちます。
これらの業種にはBtoB-EC市場拡大につながる要因がそれぞれ存在します。
調達戦略としてのEC化:サプライチェーンの最適化
電気電子機器、食品、輸送用機器製造業といった製造業分野でEC化率が高い理由としては、調達品数が多くサプライチェーンのすそ野が広いことが挙げられます。
これらの業界では、多数の部品や原材料を多岐にわたるサプライヤーから調達する必要があり、手作業による発注や管理は非効率的で実質不可能です。
そのため、業界全体で標準化された仕組みを導入し、調達に関する効率化に継続的に取り組んできた経緯があります。
ECシステムを通じて調達プロセスを自動化・効率化することで、コスト削減、リードタイム短縮、在庫最適化などを実現し、サプライチェーン全体の競争力強化を図っています。
これはまさに、企業が競争優位性を確立するための重要な調達戦略の一環であり、その結果EC化が進んだと言えるでしょう。
営業戦略としてのEC化:受注効率の向上と販路拡大(卸売業を中心に)
一方、卸売業におけるEC化は、主に営業戦略の一環として推進されています。2024年の卸売業のBtoB-EC市場規模は128兆8,684億円(前年比6.3%増)となり、EC化率は40.3%と増加しています。
卸売業では、顧客からの受注業務の効率化と、新たな販路拡大のためにEC導入が進んでいます。
従来の電話、FAX、対面といった方法に代わり、Web受注システム(ECサイト)を導入することで、受注処理の自動化、ヒューマンエラーの削減、24時間365日の受発注対応が可能になります。
さらに、ECは地理的な制約を超えて新たな顧客を開拓し、販路を拡大する強力なツールとなります。
特に、ニッチな商品や地域限定の商品を全国、あるいは海外の顧客にリーチさせる上で、ECは不可欠なチャネルです。
これにより、卸売業は効率的な受注管理と市場拡大を両立させ、事業成長の基盤を強化する営業戦略を実行しており、この観点では営業戦略としてのEC化が今後の中長期トレンドであることは間違いありません。
企業間取引におけるBtoB-ECの位置付け
見てきたように、BtoB-ECの導入は、単なるツールの導入に留まらず、企業の事業戦略と密接に結びついています。
製造業においてはサプライチェーン全体の最適化を目指す調達戦略として、卸売業においては受注業務の効率化と市場拡大を図る営業戦略として、それぞれ異なる目的と効果をもってECが活用されているのです。
今後もデジタル技術の進化と共に、BtoB-ECは多様なビジネスシーンにおいて、企業の成長を牽引する重要な要素であり続けるでしょう。
出展・関連コラムのご紹介
出展:本コラムで掲示している資料は、「令和6年度電子商取引に関する市場調査報告書」から引用しています。
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