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中小企業が取るべき越境EC戦略について(令和6年度電子商取引に関する市場調査の解説 第4回)

中小企業が取るべき越境EC戦略について(令和6年度電子商取引に関する市場調査の解説 第4回)

経済産業省は2025年8月26日に、「令和6年度電子商取引に関する市場調査」の結果を公表しました。
セカイカートでは、全4回のシリーズで調査資料を基に解説と独自の考察をお届けします。
このコラムは、第4回になります。

第4回 中小企業が取るべき越境EC戦略

第4回目では、中小企業が取るべき越境EC戦略について解説します。

中小企業が取るべき越境EC戦略:クラウド型BtoB-ECで世界市場へ

数年前までは、BtoB取引のデジタル化は、従来大規模なシステム開発や高価なパッケージソフトの導入・カスタマイズが必要であったため、資本力のある大企業が中心でした。
しかし、クラウド型BtoB-ECサービスの普及により、中小企業にとってもぐっと身近なものになりました。
SaaS(Software as a Service)形式で提供されるこれらのサービスは、月額利用料などのサブスクリプションモデルで利用できるため、初期費用を抑え、迅速にECを始められます。
システムのアップデートやメンテナンスはサービス提供者が行うため、運用にかかる負担も軽減されます。

クラウド型BtoB-ECサービスの拡大によって、中小企業に以下のようなチャンスをもたらしています

1. 新規顧客の獲得

ECマーケットプレイスやECモールに出店することで、自社の認知度を高め、これまでアプローチが難しかった遠方の顧客や、新たな業界の顧客との接点を持つことができます。これにより、新たな販路が開拓され、事業成長につながる可能性があります。

2. 業務効率化とコスト削減

BtoB取引の電子化によって、受発注業務を自動化できます。FAXや電話、メールでのやり取りに費やしていた時間を削減し、人的ミスも減らせます。浮いたリソースを、営業活動や商品開発など、より価値の高い業務に振り向けることができます。

3. データに基づいた経営判断

ECサイトを通じて得られる顧客の購買データやアクセスデータを分析することで、需要予測や商品開発、マーケティング戦略をより正確に立てられます。感覚に頼らないデータドリブンな経営が可能となり、競争力を高めることができます。

「越境ECの事業モデル」の利点と課題点

これらのチャンスを最大限に活かすため、中小企業はどのように越境EC戦略を構築すべきでしょうか。
経済産業省の「令和6年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」で示された「越境ECの事業モデル」の利点と課題点を解説します。

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モデルモデル概要利点課題点
1. 国内自社ECサイトモデル既存の国内向け自社ECサイトを多言語・多通貨対応に拡張し、海外からの注文を受け付けます。BtoCだけでなく、BtoB取引にも活用できます。
  • 既存のインフラを最大限に活用でき、低リスクかつ少ない初期投資で越境ECを始められる
  • サイトの自由度が高く、ブランドイメージを細かくコントロールできる
  • 海外顧客へのリーチには、ターゲット国に合わせたマーケティング活動が不可欠で集客コストがかかる
  • 商品によっては国際配送のコストや時間がネックになる
2. 国内ECモール等出店(出品)国内の越境EC対応モールに出店するモデルです。
  • モールの越境機能を活用でき、新たなインフラ投資が不要
  • 既に多くのユーザーが利用しているため、比較的早期に海外消費者に商品を届けられる
  • 複数モールに出品する場合、注文管理や在庫管理が複雑化
  • モールの規約や手数料体系に従う必要がある
3. 相手国ECモール出店モデルターゲット国のECモールに直接出店するモデルです。
  • 特定国・地域に特化した販路拡大に有効
  • 現地モールでの知名度や信頼性を活用できる
  • 現地商習慣や法律への対応が求められ難易度が高い
  • 現地モールのサポート体制が十分でない場合もある
4. 保税区活用型モデル商品を相手国の保税倉庫に保管し、注文後に配送するモデル。特に中国向け越境ECで一般的。
  • 国際輸送の時間を短縮し、迅速な配送で顧客満足度向上
  • 関税手続きが簡素化される
  • 一定量の在庫を現地で管理する必要があり、在庫管理体制が重要
  • 保税倉庫の利用コストが発生
5. 一般貿易型モデル従来のBtoB取引と同様、現地輸入業者を介して販売。輸入業者がECモール等で販売。
  • 既存の商流を活用でき、自社で越境ECノウハウを蓄積する必要なし
  • 輸入業者との信頼関係があれば安定した取引が期待できる
  • 販売を輸入業者に依存するため、最終顧客へのマーケティングやブランドコントロールが難しい
6. 相手国自社サイトモデルターゲット国で独自にECサイトを構築・運営するモデル。
  • 現地顧客に合わせた最適なブランド体験を提供
  • 顧客データやマーケティングデータを直接取得・分析できる
  • 最も高い投資と運営コミットメントが必要
  • 現地法律や文化を深く理解し、それに基づいた運営体制を構築する必要あり


BtoB商品の越境EC戦略:クラウド型ECサービスが最適解である理由

既存の海外取引先との取引をEC化するにあたって、クラウド型ECサービスを活用した自社ECモデルは最も費用対効果が高く、リスクを抑えた戦略です。

初期投資と運用コストの削減

スクラッチ開発やパッケージ型ECサイト構築に比べ、初期費用を大幅に抑えられます。
サーバーの維持管理が不要なため、運用コストも低く抑えられます。

迅速な導入と多言語・多通貨対応

既製のサービスを利用するため、短期間でECサイトを立ち上げられます。
多くのクラウド型ECサービスは、多言語・多通貨対応機能を標準で備えているか、容易に追加できるため、海外取引に不可欠な機能を迅速に実装できます。

セキュリティと機能の最新性

ベンダーが常にセキュリティ対策や新機能のアップデートを行うため、自社で最新の技術動向を追う必要がありません。
取引先ごとの価格設定や支払い条件の管理、インボイス発行など、BtoB特有の機能を持つサービスも増えています。

既存の取引先とのスムーズな移行

FAXやメールでの受発注業務をECサイトに一本化することで、双方の業務効率が向上します。
取引履歴や製品カタログへのアクセスを24時間可能にすることで、海外取引先の利便性を高め、関係を強化できます。

このように、クラウド型ECサービスは、既存の海外取引先とのEC化を低コスト、低リスクで実現する上で最適なソリューションと言えます。

クラウド型BtoB-ECがもたらす革新

クラウド型BtoB-ECサービスの導入は、中小企業にとって越境ECを「敷居の高いもの」から「身近な成長戦略」へと変える大きな転換点です。これまで多大なコストと専門知識が必要だった海外市場への挑戦が、月額料金で利用できるSaaSモデルによって現実的なものとなりました。

出展・関連コラムのご紹介

出展:本コラムで掲示している資料は、「令和6年度電子商取引に関する市場調査報告書」から引用しています。

関連するコラム:

令和6年度電子商取引に関する市場調査の解説テーマ
第1回BtoC-ECとBtoB-ECそれぞれの市場成長の背景と今後の見通し
第2回BtoBの越境取引市場の可能性を探る
第3回toB取引のEC化を推進する「調達戦略」と「営業戦略」について
第4回中小企業が取るべき越境EC戦略について

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